今回は「オニヒトデの毒」についてお話します。
刺された経験のある方は、よくご存じと思いますが、オニヒトデの棘に刺されると激しい痛みや、血が止まらなくなります(溶血作用)。他にも腫れ、発赤、壊死などの症状も刺された程度によって起ります。これは棘に含まれる毒による作用です。この毒は、タンパク毒と呼ばれるアミノ酸が連結したタンパク質がその正体です。オニヒトデの棘を抽出するとこの粗毒が抽出されるのですが、これで動物実験(マウス)を行うと、様々な生物活性が現れます。マウス致死活性(静脈投与LD50=140μg/kg)、溶血活性、浮腫形成活性、溶血活性、毛細血管透過性亢進活性、壊死形成活性、ホスホリパーゼA2(PLA2)活性などなど1,2)。我々の体に起こっている症状が、マウスでも同様に起こっていることが良くわかります。さて、この粗毒には、1種類のタンパク毒が含まれているわけではなく、数種類のタンパク毒が含まれます。よって上記のように、様々な生物活性や作用・症状が現れるのです。
オニヒトデの毒にはタンパク毒と違って、もう1種類のカテゴリーの毒があります。それは、サポニンと呼ばれるタンパク毒よりずっとサイズの小さい化学物質です。この化学物質の骨格は炭素で、アミノ酸の連結のような繰り返し構造を持ちません。このサポニンは、オニヒトデだけでなく他の多くの種類のヒトデにも含まれる化学物質で、ステロイド骨格(炭素骨格の形の名称)といくつかの糖(配糖体)が結合した形の総称を指します。ヒトデを飼育したことがある人は、ヒトデが死亡するとその飼育海水が泡立つ現象を経験されていると思います。その泡立ちは、石鹸と同じような化学構造の特徴を持つサポニンの仕業です。話を戻し、オニヒトデサポニン(thornasteroside類)の毒性は、マウスに対する急性毒性(経口投与300mg/kgで死亡)、溶血活性、筋弛緩活性、中枢抑制活性、肝細胞への毒性など様々報告されています3,4)。この毒は、棘だけでなく体全体の粘液中に含まれます。よって人に対する被害は、オニヒトデに刺された場合とオニヒトデを食した場合になります。オニヒトデを食す人は殆どいないとは思いますが、魚などが稚ヒトデに噛みついた時に稚ヒトデの防御物質になっている可能性はあります。
人にとって役立つ作用として、オニヒトデが養殖マダイに対し、白点病の予防や成長促進を促す作用を示すことが報告されています。上記のオニヒトデサポニンが作用しているようです5)。また、公開特許公報の中に「ヒトデエキスを有効成分とする物質」と題して、ヒトデエキス中に抗肥満作用、抗高脂血物質作用を持つ化学物質が含まれることが報告されている6)。この作用もサポニンが引き起こすと考えられており、オニヒトデにも同じ作用を持つサポニンが見つかるかもしれません。
以上、脱線しましたが、オニヒトデの毒のお話でした。2つのカテゴリーの毒がそれぞれ数種類知られており、なかなか複雑なお話でした。
北村誠
1)塩見一雄, 長島裕二 (2006) 海洋動物の毒, 成山堂書店, 81-93.
2) 塩見一雄(2003)オニヒトデ刺棘のタンパク毒, Nippon Suisan Gakkaishi, 69, 831-832.
3)北川勲(1979)化学総説25“海洋天然物化学”日本化学会編,学会出版センター, 東 京, 201-213.
4) 北川勲(1984)サポニンあれこれ-大豆とナマコ-, J. Soc. Cosmet. Chem. Japan, 18,75-82.
5)三浦猛, 養殖魚の病気対策,JASBCO, https://jasbco.co.jp/report/report05.
6) 高橋龍男(2008)ヒトデエキスを有効成分とする物質, 公開特許公報(A), 日本国特許庁, 273856A.