Q & A

<生態について>

Q:

オニヒトデは生態系で何らかの役割がありますか?

A:

オニヒトデがサンゴを食べることで、新たなサンゴや生物が棲み込む空間が作られるので、サンゴ群集の若返りを助ける働きがあると考えられています。ただし、そのようなプラスの影響があるのは、オニヒトデが1平方キロに数個体以下という自然の密度で生息しているときや、大量発生が1~2年で収束するときだけです。

Q:

オニヒトデには好きなサンゴ、嫌いなサンゴがありますか?サンゴの好みは沖縄以外の場所でも同じでしょうか?ソフトコーラルは食べますか?

A:

オニヒトデはミドリイシ類のサンゴをもっとも好みます。ミドリイシ類が少ない海域ではコモンサンゴ類やキクメイシ類、ときにはハマサンゴ類も食べることが知られていて、こうした傾向は熱帯から温帯まで共通しています。サンゴがないときはソフトコーラルや藻類の上で胃袋を出している様子がときおり観察されますが、サンゴほどの栄養はないようです。

Q:

オニヒトデの個体数がどのくらいなら自然状態なのですか?

A:

自然状態のサンゴ礁だとオニヒトデは1平方キロメートルに数個以下というきわめて低い密度で生息しています。かりにオニヒトデが増えてもサンゴ群集が維持される許容密度は、オニヒトデがサンゴを食べる量が、サンゴの成長量を上回らない密度だと考えられます。もともとあるサンゴの量やオニヒトデの個体数にもよりますが、過去の研究では以下のような密度が提案されています。

10個体/ha(山口 1986)
10~15個体/ha(Keesing&Lucas 1992, Moran&De’ath 1992 )

1ha(100m × 100m)に10個体 として考えると、 10m ×10mで0.1個体 となり、31m × 31mに1個体ぐらいの密度となります。

<駆除について>

Q:

これまでにオニヒトデを根絶した例はありますか?駆除したオニヒトデはどのように処分するのでしょうか?なにかに利用できないのでしょうか?

A:

オニヒトデは密度が低くなるほど岩やサンゴの陰に隠れて見つけにくくなるので、根絶できたかどうか確かめることが困難です。かりに成体を根絶できたとしても、ほかの海域からの移動や、幼生が流れ着くことを止めることができません。駆除したオニヒトデは土に埋められることが多いですが、土地が限られる離島では堆肥化されています。他の処分方法や利用方法についても様々な研究や試行が行われてきましたが、現在のところまだ見つかっていません。

Q:

オニヒトデを駆除することで排卵を誘発し、多くの幼生を作り出してしまうのではありませんか?

A:

オニヒトデの体内では、卵は「濾胞」という特別な細胞の袋で包まれています。水温が上昇してオニヒトデが産卵しようとするとき、自らが体内に放出する化学物質が作用してはじめて濾胞から卵が放出され、受精できるようになります。繁殖期は八重山諸島と宮古島周辺では6月、沖縄本島周辺では7月であることがわかっていて、それより早い時期であれば、駆除でオニヒトデの卵がこぼれ出たとしても問題ありません。かりに繁殖期だからと駆除を控えたとしても、結果的には自然産卵によって多くの受精卵ができることになります。

<幼生生き残り仮説について>

Q:

植物プランクトンを餌とする生物はオニヒトデ幼生以外にもいると思いますが、なぜオニヒトデ幼生だけが特に増加するのでしょうか?

A:

サンゴ礁の多くの生物の幼生が植物プランクトンを食べて成長することが知られています。しかし、これらの生物が産み出す卵の数と比べて、オニヒトデが産む卵の数は数百倍~数万倍なので(雌のオニヒトデは1回の繁殖期に数百万~数千万個もの卵をもちます)、幼生が生き残る率のわずかな違いが成体の数により大きな影響をあたえると考えられています。また、オニヒトデは他のヒトデやウニより成長が早く、他の生物に食べられやすい子供の時期が短いことも増えやすい理由のひとつです。

Q:

「幼生生き残り仮説」以外にはどのような説が考えられるのでしょうか?

A:

オニヒトデの子供(稚ヒトデ)を食べる生物が減ったことで大量発生が起きるとする「捕食者減少説」があります。捕食者が減った主な理由として、乱獲や水質汚濁の可能性が考えられているのですが、捕食者が何か、また、どのくらい稚ヒトデが食べられるかは現在も研究が続けられています。なお、ホラガイはオニヒトデの捕食者としてよく知られていますが、オニヒトデ以外のヒトデやナマコも食べますし、もともと数が少ない貝なので大量発生を抑制するほどの効果はないと考えられています。他にも、オニヒトデの大量発生が偶発的な自然現象だとする「自然発生説」があり、太平洋の島々にオニヒトデをさす現地語が存在することがその証拠だと考えられています。ただし、自然発生は80年から150年の間隔で起きると推定されていて、1960年代以降に頻繁に起きた大量発生には人為的な要因が関係すると考えられています。

Q:

陸域から流れ出す栄養塩を抑制して、サンゴ礁海域の植物プランクトンを少なく維持する事で、生態系が何らかの影響を受ける可能性はないでしょうか?

A:

自然状態のサンゴ礁海域は栄養塩がほとんどない貧栄養で、植物プランクトンも少ないことが普通です。熱帯太平洋の無人島や、人間がほとんど住んでいないグレートバリアリーフ北部のサンゴ礁がそのような状態ですが、きわめて健全なサンゴ礁生態系が維持されています。水質を清澄に保つことは、オニヒトデの生息密度を低く保つだけでなく、サンゴ礁生態系全体をより自然な状態に近づけることにつながります。

<オニヒトデ対策について>

Q:

オニヒトデの大量発生を防ぎ、サンゴ礁を保全するためにできることは何ですか?

A:

私たちの日常生活のなかで、あるいは行政の施策として、沖縄県全体で水質改善に取り組むことが大量発生対策につながります。また、水質が改善されるまでの間、様々なモニタリング(オニヒトデ・サンゴ・食痕・水質など)や漁業者・ボランティアダイバーによるオニヒトデ駆除なども必要です。これらの様々な取り組みに対する公的支援への理解を深めていただくこともサンゴ礁保全への貢献と言えるでしょう。