オニヒトデの特徴

オニヒトデの特徴

オニヒトデ(Acanthaster cf. solaris)は、これまでにインド洋・太平洋の各地でたびたび大量発生して、サンゴ礁に大きな被害をもたらしてきました。そのため、多くの調査・研究が行われてきましたが、自然界でのオニヒトデの生態は、まだまだ不明な点が多く残っています。

オニヒトデの形態的な特徴とその機能は、サンゴ礁という生息環境にうまく適応・進化した生物であることを示しています。

オニヒトデの形態的な特徴とその機能(山口 2006より)

形態的特徴 機能

背面に多数の棘がある

外敵からの攻撃を防ぐ

多数の腕に無数の管足

岩などの基盤にしっかり張り付く

内部骨格は結合していない、上下方向に薄い体である

柔軟に狭い隙間に潜り込む

口から胃を押しだし体外でサンゴを消化する

餌であるサンゴの多様な形に対応できる

多数の腕の中に栄養貯蔵器官と生殖巣を充満させる

栄養貯蔵と生殖巣の容積を大きくする

オニヒトデの生態を理解することは、オニヒトデ対策を行う上で重要です。例えば、産卵の前に駆除を行った方が次の世代の分散を抑えるという意味では、効果が高く、また、オニヒトデは夜行性であるため、日中の駆除では、取り残しが出るため、繰り返し駆除を行うことが必要になります。

卵・精子をたくさんつくる

オニヒトデは繁殖期になると体内に生殖巣を充満させており、直径30cmのメス1個体は1000万個以上の卵をもっています(Birkeland and Lucas 1990)。八重山では水温が28℃前後となる5~6月(横地 1996)、沖縄島周辺では八重山より少し遅れて6~7月に数回に分けて産卵すると推定されています(Yamazato and Kiyan 1973 in (財)沖縄観光コンベンションビューロー 2000, 環境庁自然保護局 1986)。

オニヒトデの生殖巣(オス).表皮を剥ぎ取ったオニヒトデの腕の部分の拡大写真.白いつぶつぶ部分がオニヒトデの精巣.メスも同様に生殖巣を体中に充満させている.

オニヒトデの生殖巣(メス).つぶつぶの中に約0.2mmの小さな卵が入っています.

浮遊幼生期間がある

成体のオニヒトデから放出されたオニヒトデの卵・精子は海中で受精し、幼生はプランクトンとして数週間海を漂った後、適当な定着場所に定着し、底生生活を行うようになります。浮遊幼生期間は餌の量や水温によって変化しますが、およそ3(2~6)週間です(Yamaguchi 1973, 山口 2006)。長い浮遊期間に、長距離を移動して分布を広げることができます。オニヒトデの幼生は、直径2μm以上の植物プランクトン(上限40~60μm in Yamaguchi 1973)を食べながら成長します(Okaji 1997, 岡地 1998)。駆除のときについた傷から卵と精子が海中に出ても受精することはありません。

稚オニヒトデはサンゴモを食べる

浮遊幼生期間を経て、サンゴ礁に定着したオニヒトデは、サンゴモを食べて成長します(Yamaguchi 1973)。サンゴモはサンゴ礁の至る所でみられる石灰質を体壁に分泌する石灰藻です。サンゴモはサンゴの幼生の定着・変態を誘引する物質を出すなど(Morse and Morse 1993, Morse et. al. 1994)、サンゴ礁生物と密接に関わっています。

直径が約1㎝になるとサンゴを食べるようになる

稚オニヒトデは体の大きさ(直径)が約1㎝になるとサンゴを食べ始めますが(Birkeland and Lucas 1990, Yamaguchi 1973, 1974)、あまり小さいと逆にサンゴに殺されてしまいます(Yamaguchi 1973, 1974)。サンゴがない場合はサンゴモを食べ続けますが、成長率は著しく低下します(Lucas 1984)。また、稚オニヒトデは光を避ける傾向があり(Yamaguchi 1973, Zann et al. 1987)、夜に活動的となります(Zann et al. 1987)。

条件が整っていれば、オニヒトデは2年で約20cmになり、性成熟する

サンゴモからサンゴへとスムーズに食性変換がすすみ、なおかつサンゴが豊富にあるなどの条件が整っていれば、オニヒトデは2年で直径が15-20cmに成長して成熟し、繁殖を始めまするようです(Birkeland and Lucas 1990, 山口 2006)。

オニヒトデは飼育下では5~8年生存しますが(Lucas 1984)、野外における寿命は知られていません。稚ヒトデ期からサンゴモを食べ続けても2年程度は生きているようですが、成長は制限されます(最大でも2cm程度)(Lucas 1984)。

水温が低いと生きていけない

オニヒトデは水温が15度以下になるような場所では越冬できないと考えられています(Yamaguchi 1987, 山口 2006)。例えば、水温が低く、餌であるサンゴが生息しない、八重山・宮古間や宮古・沖縄島間のような深い海に隔てられた島嶼間を、オニヒトデは移動できないだろうことが推測されています(Yamaguchi 1986, 野村・亀崎 1987)。

オニヒトデは再生する

オニヒトデは体の一部が切断されてもその部位を再生させることができます。どれだけの大きさのオニヒトデが完全に再生するか十分に研究されていませんが(Birkeland and Lucas 1990)、過去の観察例では350mmのオニヒトデを1/4に切断しても再生することがあった(Owens 1971 in Birkeland and Lucas 1990)と報告されています。

棘は非常にもろく、表面に毒を持っている

オニヒトデは多数の棘に覆われており、この棘は非常に鋭利な一方でもろくもあり、誤って刺されると棘が体内で折れて、簡単に取れなくなる場合があります。また、棘を含めた背面表皮上の粘液には毒があり(Barnes and Endean 1964)、その毒は生物に様々な反応を引き起こします。そのため、オニヒトデの棘に刺されると大変痛み、はれる場合もあります。さらに、ひどいときにはアナフィラキシーショックを引き起こす事が知られています。平良(1975)らは、オニヒトデが有している致死作用物質は非透析で、60℃もしくはpH3以下pH10以上で失活することなどからタンパク毒である事を推定しています。また、致死因子はタンパク毒としては珍しい肝臓毒で(Shiomi et al. 1990, 塩見 1991)、遅効性の毒であることから(塩見 2003)、刺された直後だけでなくその後の経過も十分に注意する必要があります。オニヒトデの駆除を行う際には、刺されないように十分に注意する必要があります。

ホラガイはオニヒトデ駆除の有効な天敵ではない

ホラガイはオニヒトデの捕食者として有名ですが、ホラガイを用いてオニヒトデを駆除することは現実的ではありません。なぜなら、ホラガイは生息密度がきわめて低いばかりか、オニヒトデ以外のヒトデも捕食する上に、食べる速度も遅く(オニヒトデのみ与えても1週間で1個体)、大きいヒトデの場合は食べ残しにより死に至らない場合もあるからです(山口 1986)。また、ホラガイの養殖も難しく、人為的にホラガイを増やしても自然状態でそれが維持されるかもわかりません(山口 1986)。

他のオニヒトデを食べる生物(フリソデエビやフグの仲間など)も同様で、オニヒトデの大量発生を抑えるような天敵としては期待できません。

フリソデエビやフグの仲間など、ホラガイの他にもオニヒトデを補食する生物はいくつか知られていますが、大量発生を抑制できるほど有効な捕食者かどうかは沖縄をふくめ我が国では検証されていません。